仏歯寺(ダラダー・マーリガーワ、キャンディ)

My Pilgrim’s Note for Asian BuddhismTemples

仏歯寺

 巡礼とは、よみがえりと新しいいのちへの旅である。罪を懺悔し、苦悩を伴った旅が成就した時に初めて、願がかなう。四国のお遍路さんは、お大師さまとの《同行二人》の旅路だ。アジアの巡礼はさしずめ、お釈迦さまとの二人旅。釈尊に導かれ、仏教二千五百年の時の流れを自らの肌と足で感じ、祈りのなかに再生を求める濃密な時間なのだ。
 スリランカへ行こう、そう思った時が最も充実している時かもしれない。ガイドブックを買い、旅行代理店、インターネットで情報を集める。フライトは、食事は、そして巡礼先・仏歯寺へのアクセスは? この国は長く内戦に苦しんでいる。危険情報も必要だ。
 グループではなく独りで行こう。語学が少々できなくともアジアでも十分に旅ができる環境が整ってきた。幸いビザは不要、この国第一の都コロンボまで成田から直行便があった。所要時間九時間。代理店で往復の航空券と初日一泊だけのホテルを手配し、パスポートと最低限の荷物だけ持って出発だ。午後一時に日本を発つと現地時間夜八時には、首都北にある国際空港に降り立つことができる。
 外国体験は、飛行機を降り立った時から始まる。光も空気もにおいも違う。当座のお金を両替し、空港から荷物を背負って外へ出る。物乞いの人、好奇心旺盛な目、目、目、潮の香りとスパイスの匂いがぷーんと流れる。タクシーの客引きを払いのけ、バスで街へ出た。ねっとりとした夜の闇の向こうにアジアの喧噪が広がる。
 この国は原始仏教の姿を最もよく伝える。釈尊の時代からそう遠くない頃、仏教が伝わった。東南アジアに広がる上座部(南伝)仏教の故郷だ。翌朝、その信仰の中核・仏陀の歯を祀る仏歯寺をめざす。苦労して中央バスターミナルを探し出した。バスはすぐ見つかった。エアコンがきいたバスで古都キャンディへ二時間半。朝の光のなか、海沿いを走り山に入る。丘陵部にはセイロンティーとして有名な茶園が広がる。
 キャンディは、一五世紀から三百年続いた古都だ。標高三百メートルの小さな盆地、旧王宮を中心に人工湖の周りの斜面に、街が広がる。オートリキシャ(三輪自動車)のタクシーを拾い宿を探す。シングル一泊朝食付きで八百~千円も出せば、瀟洒なコロニアルスタイルのゲストハウスが多数ある。穏和なこの国の住民(シンハリ人)に魅せられたのか、ストレスのたまるインド亜大陸の旅で疲れた体とこころを休め長居する欧米や日韓、香港などアジアの若い旅行者を多数見かけた。
 街の屋台でお昼を済まし、バザールの店をのぞきながら仏歯寺へと出る。お昼の法要が終わってやっと中へ入ることができた。ごった返す人の渦の流れに従う。仏陀の歯を納める厨子を、人の背中越しにどうにか拝むことができた。厨子の中の奥深くに信仰を集め四世紀にはこの国に請来された仏陀の犬歯が納められるという。頭を深く垂れ、手を合わせる人そして人、そしてその熱気、涙を流している人がいた。
 何日かこの街に居ようと思う。ポロンナルワなど古代仏教遺跡も歩こうかと思う。危険地帯に迷い込まない限り、難しい旅ではない。まだまだ有り余る珠玉の時間がある。

  • 仏歯寺にはお参りがたえない(キャンディー)

  • 法要を待つ男たち(仏歯寺)

巡礼メモ

  • キャンディ周辺地図
  •  成田発直行便の他、地方からもバンコクなど乗り換え便がある。平成15年末現在、民族紛争で最北部の都市ジャフナー一帯は外務省から渡航中止の勧告が出ている。キャンディへはバス、鉄道とも充実している。